2023年12月13日、畜ガールズブロック長会議の開催に合わせて、畜ガールズセミナー「これからの獣医療 ~チームの潜在力を最大限に発揮するために~」を東京で開催しました。セミナー開催にあたり、ミヤリサン製薬株式会社様からは多大なるご支援を賜りました。心より感謝とお礼を申し上げます。セミナーの内容は、2024年1月19日~2月29日まで、事前申込みいただいた方に限定して配信しました。ここではその内容を短くまとめて報告します。
★詳しい報告は『畜ガールズ通信』の第9号に掲載しています。『畜ガールズ通信』は畜ガールズ会員限定配信ですので、ご興味のある方はぜひ畜ガールズにご入会ください。
2023-12-13 @全国町村議員会館(東京都千代田区)
これからの獣医療 ~チームの潜在力を最大限に発揮するために~
◇ 主 催:畜ガールズ
◇ 後 援:公益社団法人日本獣医師会
◇ 協 賛:ミヤリサン製薬株式会社
◇ 内 容:
◆ 話題提供:活動紹介と取り扱い製品の紹介 ・・・ミヤリサン製薬(株)
◆ 講 演1:
Dairy Comp 305 の組織としての導入とその展開 ~北海道オホーツクのチームとしての獣医療~
・・・大脇 茂雄 先生(北海道農業共済組合)
◆ 講 演2:
ダイバーシティ&インクルージョンを実現するための組織とリーダーシップ
・・・谷田貝 孝 教授(宮崎大学)
◇ 受講申込者:163名,以下内訳
● 性 別:女性73名(全体の45%),男性90名(55%)
● 年 齢:20代20名(全体の12%),30代35名(21%),40代59名(36%),50代32名(20%),60代以上17名(10%)
● 職 業:産業動物獣医師85名(全体の52%),公務員獣医師18名(11%),その他獣医師16名(10%),畜産関係27名(17%),獣医系大学生2名(1%),その他大学生1名(1%),その他職業14名(9%)
● 畜ガールズ会員か:「はい」37名(全体の23%),「いいえ」126名(77%)
みなさま、こんにちは。畜ガールズの谷 千賀子です。本日は、「これからの獣医療 ~チームの潜在力を最大限に発揮するために~」へのご参加、誠にありがとうございます。
畜ガールズは、女性の自主的活動と地位向上に関すること等を目的として、8年間にわたり様々な取り組みをしております。前回の3年前のセミナーは、コロナ禍の中、宮崎でのオンラインでの開催でした。基調講演をしていただきました上野千鶴子先生が、私が「宮崎といえば、サーフィンのメッカ、サーフィンの風待ちのお話」をした時に、「風は待つのではなく、自らが作るものだ」とおっしゃったのが、とても印象的でした。
またセミナーに参加いただいた方から「欧州や北米では90年代くらいから獣医学生がほぼすべて女性となったこともあり、現在では多くの獣医学部長や獣医師会長が女性である。畜ガールズのような女性獣医師が意見交換できる場が多くできることで、日本にも変化が起こることを期待したい」との、力強い感想もいただいております。
さて。『カーフととうもろこし』の絵本をご存じでしょうか。こちらは子牛のカーフが、とうもろこしの成長を見守る物語です。私が熊本の地へたどり着いた、ちょうど30年前、家の周りは、緑のとうもろこし畑が広がり、酪農家さんも周辺にたくさんありました。その牧歌的な景色を今もはっきり思い出します。今、熊本は台湾の半導体企業が進出し、巨大な工場が建設されました。とうもろこし畑は売りに出されて、町は大きく変わろうとしています。農家戸数も減りました。先日のNHK特集では、食料自給率が38%の日本。飼料高騰等の原因から、この1年間、国内で約800戸の酪農家が離農したそうです。この先どうなるのか、生産現場には不安が広がっています。
畜産は時代と共に変化しました。それに関わる産業動物の獣医師も、変化しました。その一つは、女性が増えたことです。私が就職した頃は、女性は珍しい時代でした。現在は、共済の獣医師の約30%が女性であり、この数は今後さらに増加して、いずれ半数になるでしょう。おそらくそれは10年後かもしれません。畜ガールズは、女性が半数になる時を「その時」として、その時までに何をしなければいけないのか、考えてきました。
私自身も、女性が増えたことをチャンスと捉え、なにをしたらいいのかを3つの観点から考えました。
1つ目は、産業動物獣医師の役割や獣医療を、時代と共に柔軟に変化、進化させること。
2つ目は、それを、全国ネットで共有すること。
3つ目は、その全ては、世界的レベルを超えること、です。
そもそも、私たち、自分自身の環境は、誰が決めるのでしょうか。ある方は、「よくわからない、それは私の仕事ではない」と言います。ある方は、「50代の管理職の方に勉強してがんばってもらいたい」と言います。しかし、管理職の彼、あるいは彼女が、10年後の景色を描いても、「その時」には、もうリタイアされているかもしれません。もちろん、この私も、「その時」には、もういないような気がします・・・。
だから、20代から60代以上にわたる私たち全員で、共に考え、議論を深めましょう。本日は獣医師の話が中心になるかとは思いますが、獣医師だけでは、何もできません。関係者全ての皆さまに支えられて、私たちがあります。
10年後を決めるのは、今の私たちです。本日は、そのためのヒントがたくさんあると思います。皆さまで、とうもろこし畑に吹く、いい風を作りましょう!
今回のセミナーを開催するにあたり、大脇先生、谷田貝先生には講師を快く引き受けていただき本当にありがとうございます。
そして、ミヤリサン製薬株式会社様には、いつも私たち畜ガールズを支えていただき、深く感謝を申し上げます。参加者の皆さま、全ての皆さまにお礼を申し上げて、開会のご挨拶とさせていただきます。
Dairy Comp305 の組織としての導入とその展開(北海道オホーツクのチームとしての獣医療)
・・・大脇 茂雄 先生(北海道農業共済組合)
今回のご講演で、大脇先生は次の3つの話題についてお話しくださいました。以下、大脇先生のお言葉(一人称)としてまとめていること、ご了承ください。
① Dairy Comp305の紹介
② Dairy Comp305の導入
③ Dairy Comp305を基軸とした人材育成
① Dairy Comp305の紹介
Dairy Comp305(以下、DC305)は、アメリカの獣医師が開発しVAS社が販売しているソフトウエアで、世界で広く使われている標準ソフトの1つです。
DC305の利点として、妊娠率の正確な算出が可能、様々な角度から分析できる、時間軸の設定が自在、カスタマイズが可能、繁殖以外のデータを入れられることなどが挙げられます。一方、欠点として、使用言語が英語、コマンドによる操作、マニュアル本がない、有料であることなどが挙げられます。
DC305が得意とするのが妊娠率の算出です。妊娠率(妊娠率=発情発見率×受胎率)は、授精しているかどうかに関わらず繁殖候補牛全てが関わるため、最近では、牛群を把握するには妊娠率が適当だとされています。DC305は、妊娠率をリアルタイムに近い形で把握できることが特徴です。具体的には、21日間隔で繁殖対象牛の頭数と授精が行われた頭数が表示され、発情発見率が出ます。そのうち何頭が受胎したかで妊娠率が計算されます。これら発情発見率や妊娠率のデータは、自由にカスタマイズした条件(期間、産次、季節、対策の前後など)で取り出すことができます。
② Dairy Comp305の導入
最初は、個人的にDC305を購入し、繁殖検診の現場で活用していましたが、転勤時の繁殖検診データの引継ぎの際に、DC305のデータが引き継げない事態となりました。この事態を上司に報告したことをきっかけに、DC305がオホーツク域内の全9診療所に一気に導入されるに至りました。
導入後は、自らリーダーとなって普及していくこととなりました。
そこで、DC305普及のコンセプトを、組織でこそできることとし、最終目標を農場の生産性向上と定めました。ここで共通言語をDC305 として組織的に取り組むことで、農場の生産性向上を広域で実現できるチャンスと考えました。このコンセプトを逆説的にとらえ、農場の生産性向上を推進するための人材育成の基軸にDC305を据えたのです。
DC305を使用する開業獣医師が「自分でなくては(顧客の生産性を向上させられない)」と思うところを、NOSAI(組織)として目指すべきところは「自分でなくても(顧客の生産性を向上させられる)」だと考えました。そのために必要なのが、「人を育てる」ことです。気づかせる(面白がらせる)、任せる、全てをオープンに、集団知性(Collective Intelligence)を目指す、を掲げて人材育成に取り組みました。
③ Dairy Comp305を基軸とした人材育成
DC305導入から3年間は、これを取り扱える人を増やすことに費やしました。そして、3年目以降、DC305のデータ分析に触れてもらい、その有用性に気付いてもらう仕組みを作りました。まず、農場データの横断的分析に欠かせないデータの抽出作業を、オホーツク域内でDC305を使用している農場の担当獣医師に依頼しました。この時、コマンドを要因としたとっつきにくさを解消しました。続いて、集約したデータをどのように生かすのか、いくつかの分析を担当獣医師とともに行いました。その結果、データを集約し、横断的に比較することで、農場の強みや弱みを認識し、課題解決につなげていくことができるという気付きがうまれました。
その後、繁殖検診の実地研修とDC305の操作研修をパッケージとしたオホーツク繁殖研修を始めたり、ZoomやTeamsなどのオンラインシステムを活用した講習会や、オープンな情報交換を行うことを始めました。
〈まとめ〉
DC305導入から8年目の今、延べ70農場と40名近くの獣医師がDC305を使用しており、その多くで妊娠率が向上し、経営改善につながった農場もあります。
DC305を導入した波及効果として、DC305が内勤する獣医師の新しい仕事となり、その結果、内勤の獣医師がDC305のエキスパートになってきています。また、蹄病検診や飼料設計ソフトNDSの導入と普及にも波及しています。DC305の今後の展開についても、カンファレンスの開催やゲノム検査との連携、DC305とNDSを組み合わせた総合的な農場支援等の提案などが挙がってきています。
DC305を基軸にした人材育成パッケージには、新たな取り組み(Thought)、突破口を開く役(Action)、コツコツとした積み重ね(Continuation)があり、それには、覚悟をもってリーダーシップをとらなければならない場面がありました。さらに重要だったのが、これを支える体制で、オホーツクに新しいチャレンジを応援する気風があったことはとても幸運でした。今度は私も支える立場となりたいと思っています。
★ 大脇先生がご講演の中でご紹介くださった機器や書籍など
★ セミナー受講者の感想
ダイバーシティ&インクルージョンを実現するための組織とリーダーシップ
・・・谷田貝 孝 教授(宮崎大学)
今回のご講演では、究極の目的である「理想のチーム・組織の探求」を目指すための道筋を描くことについて、次の内容でお話をくださいました。
① 自分を知る
▶ マインドセット
▶ コミュニケーションパターン
② 関係性を理解する
▶ ジョハリの窓
③ 関係性をデザインする
▶ 組織開発論
▶ 組織行動論
組織開発とは、組織の健全性、効果性、自己革新力を高めるために、組織内の当事者自らが組織を理解し、発展させ、変革していく、計画的で協同的な過程をいい(Warric. D.D., 2005)、組織開発の流れは、①関係性の質の整備、②思考の質の深化、③行動の質の変化、④結果の質の向上の流れを循環させながらより良い方向に向かうことが重要だということです(図1)。
図1. 組織開発の流れ(谷田貝先生ご講演スライドをもとに作図)
私たちが求めるところは、④結果の質の向上ですが、実際には、①関係性の質の整備から始めていかなければうまくいかないということで、関係性の質である自分を知り、相手を知り、関係性を理解することについて重点的にお話を頂き、④に繋がっていきました。
「ダイバーシティ」とは、「多様性」「相違点」「多種多様性」という意味です。人間社会で考えた場合は「人と人、または集団の間にある様々な違い」と言い換えることができ、これは現実に当たり前に存在するものです。「インクルージョン」は、「受け入れる」「組み入れる」という意味を持つ言葉です。したがって、「ダイバーシティ&インクルージョン」は、多様性を認識するだけではなく、一人一人がこれを受け入れ、尊重することによって個人の力が発揮できる環境を整備したり、働きかけたりしていく、という考え方です。ダイバーシティは現実に存在するのですから、それを取り込もうとすることが大事です。
次のCaseから、関係性の質の整備に必要なことを探っていきました。
◆Case: ある銀行員と中小企業経営者の日常会話(テーブル下の会話)
(銀行員)この企業の経営者は、まったく経営のことが分かっていない。決算書は経理担当任せで数字のことを聞いても説明ができない。経営者として失格!
(中小企業経営者)銀行の担当者は、まったく事業のことが分かっていない。数字、数字というだけで、経営や事業に役立つことは何一つ言わない。そもそも事業のことが分かっていないのだから、役立つ情報など持っていない。
お互いの間に何かしらの問題があることは分かりますが、そもそも問題とは何でしょうか?
コンサル業界では、理想と現実の差を問題というそうです。相手がある場合、何が問題かを定義して共有すること、すなわち、理想状態と現状認識の共有が必要になります。しかし、現状認識自体がすれ違っていると、問題の認識は違ってきます。
次に、問題と課題の違いについても整理しました。たくさん出てきた問題のすべてを同時並行で解決することは不可能です。そこで、関係者間で問題を共有した後、「解決すべき」と前向きに合意された問題を「課題」として区別するそうです。しかし現実では、この合意に至るまでの過程も大変で、問題と課題を形式化できていない者同士が話し合うと、上のCaseのような状態になるそうです。
◎参考:『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』(安斎勇樹、塩瀬隆之著 学芸出版社)
Caseを通して、言葉を定義していかないとチームや組織はうまくいかないことに気付かされました。こういった状況がなぜ生じるのか、生じさせないためにはどのようにすればいいのか、この後、「関係性の質」の整備のための、自分を知る作業に進みました。
① 自分を知る
ダイバーシティには、デモグラフィック(年齢、性別、職業など比較的外側から分かりやすい属性)なものもありますが、人と人とが信頼関係を結ぶ、共感するうえでは、メンタル(心理学的多様性)に踏み込むことも大事です。この時に、人を理解するための心理学的類型があることを知っておくのもいいということで、「マインドセット」と「コミュニケーションパターン」についてお話しいただきました。
▶ マインドセット(心の在り方)
人間の信念は、その人の望みや、その望みが叶うかどうかに大きく依存するそうです。信念とは、マインドセット(心の在り方)の産物で、性格とは異なります。マインドセットには、硬直マインドセット(自分の能力は固定的で変わらないと信じている)としなやかマインドセット(人間の基本的資質は努力次第で伸ばすことができると信じている)の大きく2種類あります。しなやかマインドセットとは、持って生まれた才能、適性などに関わらず、後天的に伸びるという信念なので、このマインドセットの人は、自ら進んで困難に挑戦するだけではなく、それを糧にして成長できます。一方で、硬直マインドセットの人は、ある困難に遭った時に自分の無能が証明された、未来永劫成功できないと思ってしまうため、挑戦ができなくなります。マインドセットを変えることは容易ではありませんが、変えることはできます。また、大事なことは、このマインドセットのどちらが能力的に優れている、ということではないことです。
マインドセットを知ることで2つの気づきが生まれます。1つは、自分自身のマインドセットが硬直だと思った場合に、しなやかになるよう意識してマインドセットを変えていくことで、心の在りようだけでなく人生がよりよくなるということです。もう1つは、硬直なマインドセットを持っている人もいれば、しなやかな人もいるということを知ることです。多様性を考える上でマインドセットの考え方は必要な知識です。相手がある場合には、マインドセットにも個性があることを認識して、それに対応した接し方をすると物事がうまく進むこともあるかもしれないということでした。
ここまで、組織をよりよくするという結果をもたらすためには、そこに関わる人の関係性の質を整備する必要があるということで、個人のもつマインドセットについて勉強しました。ここからは、効果的なコミュニケーションについて、お話しを頂きました。
◎参考:『マインドセット 「やればできる」の研究』(キャロル・S・ドゥエック著、今西康子訳 草思社)
▶ コミュニケーションパターン
人が人と関わっている時のコミュニケーションにもそれぞれ特徴があるそうです。セミナーでは、自分の対人コミュニケーションパターンを客観的に見るために用意された質問票と、ここから導き出された結果(レーダーチャート)から、自分のコミュニケーションの仕方や特徴について考えました。自分の対人コミュニケーションパターンに気付くと同時に、相手のパターンも意識すると、コミュニケーションの幅が広がるそうです。
◎参考:『人間関係トレーニング』(津村俊充、山口真人著 ナカニシヤ出版)
② 関係性を理解する
▶ ジョハリの窓
「ジョハリの窓」とは、グループの関係性に関するフレームワーク理論で、対人関係における気付きの図式モデルです(図2)。自分と相手との関わり具合によって、「解放」「盲点」「隠された」「未知」の4領域から成り、グループ内で起こっているお互いの影響について開示すること(フィードバック)を通じてグループの関係性が改善されると「解放」領域が広がり、新たな気付きが得やすくなります。相手と自分の間の開放領域を広げることも大切ですし、盲点や隠された領域があるということに意識を寄せることにも意味があるそうです。
◎参考:『組織開発の探求 理論に学び、実践に活かす』(中村淳、中村和彦著 ダイヤモンド社)
図2. ジョハリの窓(谷田貝先生ご講演スライドをもとに作図)。
左図はフィードバック前、右図はフィードバックによってグループの関係性が改善され「解放」領域が広がった状態。
③ 関係性をデザインする
▶ 組織開発論
前述した通り、組織開発の本来の意味は、組織内の当事者が自らの組織を効果的にしていくことや、そのための支援です。図1では、組織開発の流れを一方方向に示しましたが、成功時のモデルでは、これがサークル状に循環するそうです。
組織やチームの構造には、目に見えやすく意識しやすい「コンテント」と、意識しにくい「プロセス」部分があり、氷山モデルとして表現されるそうです。海上に出ている氷の部分が「コンテント(目に見える問題事象)」、海中に沈んでいる部分が「タスク・プロセス(目に見えにくい問題事象)」と「メンテナンス・プロセス(見えない問題事象)」になります。タスク・プロセスは、意思決定のされ方、目標の共有、役割分担など、メンテナンス・プロセスは、職場の雰囲気や組織風土、メンバーのモチベーション、メンバー同士の関係性などが該当します。
組織開発を進める上で生じるプロセスロス(社員が力を発揮できない原因)にも、両プロセスの影響があり、綱引きに例えて、100kgの重量を引っ張れる人が10人集まった時に、100kg×10=1000kgにはならず、3割ほどのロスが生まれる要因として、綱を引く方向がばらばらなのがタスク・プロセス、気持ちがばらばらなのがメンテナンス・プロセスと説明されました。
このように、組織として結果を出す(仕事の成果を上げる)ことと、組織構造は別物ではなく、結果を向上させるためには、その背景にあるプロセスを無視することはできず、長期的に見ると、プロセスを改善していくほうが近道であるということでした。
◎参考:『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』(早瀬 信、高橋妙子、瀬山暁夫著 ダイヤモンド社)
▶ 組織行動論
組織行動論の中でもコンフリクト(conflict)・マネジメントに焦点を当ててお話しくださいました。欧米に比べて日本では、正面から相手の意見に反論することに慣れておらず、コンフリクトを避ける傾向があるそうです。しかし、異なる意見があること自体もダイバーシティです。チームメンバーが分かり合えるためにはどうしたらいいか。コンフリクトを起こしてはいけない、ではなく正しく理解し、コンフリクトがあることを前提として、どのようにマネジメントするかを学ぶ必要があるとのことでした。
コンフリクトには、「条件の対立」「認知の対立」「感情の対立」の3種類があり、これらの対立の解決には、自分と相手への配慮の程度から、「強制(競争)」「回避」「妥協」「協調」「服従(適応)」の5つの方法に分類されるそうです(図3)。このうち、「協調」がベストな解決法であり、相手との長期の付き合いを重視し、信頼関係を重視するなら協調を目指すことが得策です。
図3. コンフリクト・マネジメント
良いコンフリクト(タスク・コンフリクト)では、異なる意見のぶつかり合いによって、新しいアイデアや価値、イノベーションが生まれる可能性を秘めており、逆に、悪いコンフリクト(リレーションシップ・コンフリクト)は、感情的対立で、当事者にも周囲にもポジティブな影響がない対立です。対立を克服するリーダーに求められる資質として、「目的の共有」「上下関係への敏感さ」「普段からの信頼関係」に心を砕いていることがあるそうです。
組織の中で、事実と論理に基づいて異なる見解をダイバーシティとしてインクルーシブしながら、より良いもののための議論ができるか、ということが、リーダーに求められる資質といえます、とまとめられました。
◎参考:『人と組織を強くする交渉力-コンフリクト・マネジメントの実践トレーニング』(鈴木有香 自由国民社)
★ 谷田貝先生がご講演の中でご紹介くださった書籍
★ セミナー受講者の感想
〈セミナーを通しての所感〉
この報告では、大脇先生のお話をあえて一人称の形でまとめました。大脇先生のご講演内容を拝聴しながら、これは、聴く人間も「私でなくてもいい、でも私も組織の一員として(顧客の生産性向上に努める)」と、自分事として考えることが大事ではないかと思ったからです。組織をより良くするための提案をし、行動を起こし続ける覚悟がチームの力を最大限に発揮するためには大事なのだと改めて考えました。DC305そのものの有用性も具体的に教えていただき、非常に内容の濃いお話でした。ありがとうございました。
谷田貝先生のお話は、自分の身の回りで日常的に起こっている様々な事象が、いちいち組織論で説明ができることを、本当に興味深く拝聴しました。組織をより良くしたいと考えるときに、関係性の整備から順を追って行うことの大切さはとても腑に落ち、D&Iの実現には多様性を俯瞰して見ることが重要であると新たに気付くことができました。また、多くの書籍をご紹介くださり、ありがとうございました。
(報告者:ジョー)
★ セミナー受講者のセミナー全体に対しての意見・感想