2023年11月19日に大阪で開催された第44回動物臨床医学会年次大会において、畜ガールズのセッションを行いました。近年、畜産を取り巻く環境は複雑になり、獣医師に対するニーズは変化しています。畜ガールズはこれまで女性の自主的活動と地位向上に関すること等を目的として、8年間にわたり様々な取り組みをしてきました。その中で獣医師の個々の価値観は多様化し、世代や立場によっても異なっていることに気づきました。そこで本セッションでは獣医師の価値観と今後の獣医療のあり方をテーマとし、4名の演者による話題提供および問題提起を行い、参加者とともにディスカッションをしました。以下、その内容について報告します。
2023-11-19 @グランキューブ大阪(大阪府大阪市)
第44回 動物臨床医学会記念年次大会
〈産業動物分科会 畜ガールズセッション〉
どうする 獣医師!
~ 獣医師の価値観と今後の獣医療のあり方を探る~
① 畜ガールズ活動と獣医師の役割
・・・ 谷 千賀子(畜ガールズ)
【話題要約】
畜ガールズは、獣医師のメンタルヘルスや職場改善に関する活動を行ってきた。2018年には世界牛病学会 札幌(WBC2018)において、ワークショップ “How should we best use of women power in livestock industry?”(産業動物界の女性獣医師等の力を最大限に発揮するにはどうしたらよいか)を開催した。その中で「産業動物業界では、男女は平等だと思いますか?」の質問に約90%が「No」と回答した。世界の参加者がいる中、この結果は意外だった。しかし、これは別の視点から見れば、女性がその力を十分に発揮できれば、この業界はまだ進化できる可能性があると感じた。
2020年にはオンライン講演会「ここから始める獣医師の働き方改革 ~畜ガールズが描く未来~」を開催し、30代の女性獣医師4名によるパネルディスカッションにおいて、「『その時』までに私たちがやるべき12か条」を作成した(「その時」=産業動物臨床においても獣医師の半数を女性が占めるようになる時)。共済獣医師の女性の比率は、20年前;約5%、10年前;約15%、そして今は約30%である。女性獣医師がさらに増えていくのは間違いない。男女がその力を最大限に発揮するためには、職場環境とともに、獣医師の役割や仕事内容についても見直す時期にきているのかもしれない。
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【問題提起】
■ 女性が増えたことを転機として、仕事内容・体制も変えていくべきか?
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(参加者の意見)
(セッション後の演者の感想)
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② 鳥取県における家畜診療の現状~全国的な家畜診療状況を踏まえて~
・・・ 原田 麻希子(鳥取県農業共済組合)
【話題要約】
現在、全国的に家畜診療所は様々な問題を抱えており、その状況について、「経営の問題」、「人員確保・年齢層の問題」、「勤務状況」に分けて説明する。また、鳥取県における家畜診療の現状も併せて説明し、今後の課題についても示していく。
家畜診療所の収支状況は、2020年度では、全国で合計8.9億円の赤字がある。その要因の1つとして、2018年度に行われた制度改正により、共済掛金乙額に代わり病傷事故による診療実績に応じた診療収入が診療所の主な収入源となったことがあげられる。つまり必然的に農家数の少ない地域や往診距離の長い地域の診療所は、獣医師1人当たりの病傷事故診療件数が少なく、黒字の診療所より診療収入が約25%少なくなっている。
農業共済団体の獣医師の採用状況は、2005年以降、採用人数が募集人員を下回っており、その傾向は近年においてますます顕著になってきている。2021年度の年齢層における比較では、50代より40代の獣医師数が少なく、男女比では30代の30%以上が、20代の50%が女性である。2020年度の家畜診療所の年間定例休日日数は全国平均で約123日であり、その取得率は約87%である。獣医師1人当たりの年間時間外労働については、30%以上の施設で150時間を超えている。(以上、農林水産省のHP等を参照)
鳥取県における家畜診療の現状は、2022年度の県内の飼養頭数は、搾乳牛8,272頭、育成乳牛6,213頭、繁殖用雌牛5,013頭、育成・肥育牛35,045頭であり、家畜診療所獣医師16人、開業獣医師12人が対応している。家畜診療所の収支状況は赤字経営ではあるが、支所により診療件数に差があり、農家数が少なく往診距離の長い地区では特に厳しい経営状況である。また、開業獣医師の高齢化(平均年齢約66歳)により、年々家畜診療所の診療件数シェアは増加している。年齢層及び男女比についてはほぼ全国の状況と同様である。勤務状況については、診療件数により各支所で異なるが、家畜診療所と各地区の農家との協議を毎年進めることにより、打開策を提案・協議し少しずつ改善している段階である。
鳥取県では今後も家畜診療所の病傷事故件数は増加傾向にあると考えられ、獣医師の確保は必須である。その上で繁殖検診を増やし、中・長期的には、病傷事故と合わせた繁殖ソフトを用いることで生産獣医療につなげ、診療事故外収入として安定的な収入源にしたいと考えている。また、県内の大学等の他機関と連携し、様々な取り組みを行うことで、20代・30代のやりがいを感じられる職場を作っていくことが、今後の重要な課題である。
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【問題提起1-a】
■ 農家が家畜診療所に求めるものとは何でしょうか?
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(参加者の意見)
(セッション後の演者の感想)
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【問題提起1-b】
■ それ(問題提起1-a)に応えるために家畜診療所が整える体制は?
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(参加者の意見)
(セッション後の演者の感想)
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【問題提起2】
■ 誰もが働きやすい職場にするためにすることは何でしょうか。また職場のいいところを教えてください。
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(参加者の意見)
(セッション後の演者の感想)
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③ どうする?これからの共済制度と生産獣医療:長崎県の事例
・・・ 早島 慈(長崎県農業共済組合)
【話題要約】
2019年4月より家畜共済は制度改正に伴い、共済掛金乙額に代わり診療実績に応じた病傷共済金相当額が共済診療所の主な収入源となった。旧制度では共済獣医師の努力により疾病の減少が達成されても、診療所には一定の診療技術料相当額が保障されていた。新制度では獣医師は治療した分だけが給付されるため、疾病の減少により診療所経営が不安定化する可能性が出てきた。
今回、疾病および経営に問題点があった2戸の酪農家において、生産獣医療で改善が認められたため、指導効果・農家経営・診療所収入の観点から生産獣医療の有益性を検証した。
[問題を抱える2酪農家の概要]
A農家:搾乳牛93頭、フリーバーン・フリーストール牛舎。2017年12月より共済診療所による対策を実施。哺乳子牛の腸炎の発生・死亡が多発。哺乳バケツの洗浄など飼養環境に問題があったが、農家の労働力不足が根本的な原因である事から、その確保を最優先とし、飼養環境の改善、繁殖検診も行った。
B農家:搾乳牛103頭、フリーバーン牛舎。2016年より飼養頭数の減少、経営状態が悪化、個体乳量が低く、飼料面では添加物が飼料費を圧迫していた。一般疾病、繁殖検診、コンサルタントで担当獣医師が、それぞれ異なっており、共済獣医師が農家経営に関して踏み込み難い状況となっていた。2019年11月より経営改善策の統一のため、共済獣医師に一任してもらい飼養管理や経営面等の総合的な見直しと繁殖検診を行った。
[結果]
A農家:2018年中旬より労働力2名を増員。飼養環境が改善したことにより、哺乳子牛腸炎による死亡頭数は当初は11頭/年であったが、2年後には1頭/年に減少した。経営面では、雇人費が年額約230万円と増加したが、所得金額は約240万円増加した。
B農家:平均乳量は2019年11月で約20.1kg/日だったが、2021年2月で26.9kg/日となった。所得金額は、2019年度約1,200万円の赤字から、2020年度では約86万円の黒字となった。診療所収入:繁殖検診による収入は、A農家で年額約17万円、B農家で年額約44万円となった。
[まとめ]
生産獣医療により病傷・死廃事故の減少、所得の増加により廃農するリスクが低下した。また、両農家とも繁殖検診を行うことで安定した診療所収入の確保が可能となった。これらより生産獣医療は有益であると判断した。
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【問題提起1】
■ 生産獣医療は共済診療所の業務の範疇と考えるべきか?
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(参加者の意見)
(セッション後の演者の感想)
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【問題提起2】
■ 生産獣医療の対価はどこから(誰が)負担すべきか?
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(参加者の意見)
(セッション後の演者の感想)
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④ こんな農家に出会ったらあなたならどうする?
・・・ 杉山美恵子(愛媛県農業共済組合)
【話題要約】
これまで、産業動物獣医師は家畜の病気の治療をするだけでなく、畜産農家に対して飼養管理指導や損害防止事業なども行ってきた。そして、畜産農家は、経験に基づくデータや様々なソースから得た情報を活用して生産性を向上させてきた。しかし、高齢化や後継者不足などの理由から家畜診療所のサポートを必要とする畜産農家も依然として残っている。一方で、家畜診療所は人手不足や業務の収益性などの問題に直面し、何らかの運営方針の転換を迫られている。このような状況の中で、産業動物獣医師と問題を抱える畜産農家とのかかわり方について、管内の1酪農家の飼養管理改善対策を通して考えてみる。
昨年春赴任した家畜診療所の管内に多くの問題を抱えている1酪農家がある。酪農家からは、「繁殖成績を良くしたい」「乳質を良くしたい」などと診療所に対して指導を求めてられているにもかかわらず、これまで診療所の獣医師は深くかかわっていない。その理由は、様々である。「問題が多すぎて、簡単には解決しそうもないこの酪農家の飼養管理改善に対して、獣医師としてどう対応するべきなのか?」を検討した。
[問題を抱えるA農家の概要]
[A 農家の主な問題点]
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【問題提起】
■ こんな農家に出会ったらあなたどうしますか?
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(参加者の意見)
(セッション後の演者の感想)
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演者の話題提供も日常の仕事の中での切実な内容が多く、それぞれの問題提起も現実に即したテーマだった。短い時間であったが参加者と問題を共有し、ディスカッションできたことは、今後の獣医療を考える貴重な機会になった。
(報告:ジェーン)